ありませんが」
大「なアに未練《みれん》がある」
 と云いながら、やっと突然《いきなり》林藏の胸倉を捉《とら》えますから、
林「何をなさいます」
 と云う所を、押倒しざま林藏が差して居ました小脇差を引抜いて咽笛《のどぶえ》へプツーリ突通《つきとお》す。
林「ウワー」
 と悶掻《もが》く所を乗掛って、
大「ウヽーン」
 と突貫《つきつらぬ》く、林藏は苦紛《くるしまぎ》れに柄元《つかもと》へ手を掛けたなり、
林「ウヽーン」
 と息が止りました。是から大藏は伸上って庭外《そと》を見ましたが人も来ない様子ゆえ、
大「しめた」
 と大藏は跡へ帰って硯箱を取出して手紙を認《したゝ》め、是から菊が書いた起請文を取出して、大藏とある大の字の中央《まんなか》へ(ー《ぼう》)を通して跳《は》ね、右方《こちら》へ木の字を加えて、大藏を林藏と改書《なお》して、血をべっとりと塗附けて之を懐中し、又々庭へ出て、お菊の懐中を探して見たが、別に掛守《かけまもり》もない、帯止《おびどめ》を解《ほど》いて見ますと中に守《まもり》が入って居《おり》ますから、其の中へ右の起請を納《い》れ、元の様《よう》に致して置き、夜《よ》
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