したが、其の事でこれを書かせるのだな、今こゝで書かなければ尚疑われる、兄の勤めている主人方へお屋敷の一大事を内通をする事も出来ん、先方の心の休まるように書いた方が宜かろうと、羞《はず》かしそうに筆を執りまして、大藏が教ゆる通りの文面をすら/\書いてやりました。
大「まア待て、待て/\、名を書くのに松蔭と書かれちゃア主人のようだ、何処までも恋の情でいかんければならん、矢張ぷっつけに[#「ぷっつけに」は「ぶっつけに」の誤記か]大藏殿と書け」
菊「貴方のお名を……」
大「ま書け/\、字配りは此処《こゝ》から書け」
 と指を差された処へ筆を当てゝ、ちゃんと書いた後《のち》、自分の名を羞かしそうにきくと書き終り、
菊「あの、起請は神に誓いまして書きますもので、血か何か附けますのですか」
大「なに血は宜しい、手前の自筆なれば別に疑うところもない、あゝ有難い」
 押戴《おしいたゞ》いて巻納《まきおさ》めもう一盃《いっぱい》。と酒を飲みながら如何《いか》なることをか工《たく》むらん、続けて三盃《さんばい》ばかり飲みました。
大「あゝ酔った」
菊「大層お色に出ました」
大「殺して居た酒が一時《いちじ》に
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