お父《とっ》さんのお帰りのない中《うち》に、今日はちとお帰りが遅くなるだろう、事に寄ると年寄の喜八郎《きはちろう》の処へ廻ると仰しゃったが村の年寄の処へ寄れば話が長くなって、お帰りも遅くなろう、ま酌をして呉れ」
千「はい、お酌を致します」
長「手襷《たすき》を脱《と》んなさい、忙がしかろうが、何もお前は台所《だいどこ》を働かんでも、一切道具ばかり取扱って居《お》れば宜《よ》いんだ」
千「あの大殿様がお留守でございますから宜いお道具は出しませんで、粗末と申しては済みませんが、皆此の様な物で宜しゅうございますか」
長「酌は美女《たぼ》、食物《くいもの》は器で、宜《い》い器でないと肴が旨く喰えんが、酌はお前のような美しい顔を見ながら飲むと酒が旨いなア」
千「御冗談ばかり御意遊ばします」
長「酔わんと極りが悪いから酔うよ」
千「お酔い遊ばせ、ですが余り召上ると毒でございますよ」
長「まだ飲みもせん内から毒などと云っちゃア困るが、実にお前は堅いねえ」
千「はい、武骨者でいけません」
長「いや、お父さんがお前を感心しているよ、親孝行で、何を見ても聞いても母の事ばかり云って居るって、併《しか》しお前
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