林「お菊《けく》さん、もう亥刻《よつ》[#「亥刻」は底本では「戌刻」]かな」
菊「もう直《じき》に亥刻[#「亥刻」は底本では「戌刻」]だよ」
林「亥刻[#「亥刻」は底本では「戌刻」]ならそろ/\始めねえばなんねえ」
 とだん/\お菊の側へ摺寄《すりよ》りました。

        二十一

 其の時お菊は驚いて容《かたち》を正し、
菊「何をする」
 と云いながら、側に在《あ》りました烟管《きせる》にて林藏の頭を打《ぶ》ちました。
林「あゝ痛《いて》え、何《なん》で打《ぶ》った、呆れて物が云われねえ」
菊「早くお前の部屋へおいで何《なん》ぼ私が年が往《い》かないと云って、余《あんま》り人を馬鹿にして、さ、出て行っておくれよ、本当に呆れてしまうよ」
林「出て往《ゆ》くも往《え》かねえも要《い》らねえ、否《えや》なら否《えや》で訳は分ってる、突然《えきなり》頭部《あたま》にやして、本当に呆れてしまう、何だって打《ぶ》ったよ」
菊「打《ぶ》たなくてさ、旦那様のお留守に冗談も程がある、よく考えて御覧、私は旦那さまに別段御贔屓になることも知っていながら、気違じみた真似をして、直《すぐ》に出て往っ
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