ちゃアいかん、心の儘に飲めよ」
林「ヒエ/\有難い事で」
大「さ己が一盃《ひとつ》合《あい》をする」
 とグーと一盃《いっぱい》飲み、又向うへ差し、林藏を酔わせないと話が出来ません。尤《もっと》も愚《おろか》だから欺《だま》すには造作もない、お菊は船上忠助の妹ゆえ、渡邊織江へ内通を致しはせんかと、松蔭大藏も実に心配な事でございますから、林藏から先へ欺《あざむ》く趣向でござります。林藏は段々|宜《よ》い心持に酔って来ましたので仮名違いの言語《ことば》で喋ります。
大「遠慮なしに沢山|飲《や》れ」
林「ヒエ有難い事で、大層|酩酊《めんてい》致しやした」
大「いや/\まだ酩酊《めいてい》という程飲みやアせん、貴様は国にも余り親戚《みより》頼りのないという事を聞いたが、全く左様かえ」
林「ヒエ一人|従弟《えとこ》がありやすが、是は死んでしまエたか、生きているか分《わ》きやたゝんので、今迄何とも音ずれのない処を見ると、死んでしもうたかと思いやす、実《ぜつ》にはや樹《け》から落ちた何とか同様で、心細い身の上でがす」
大「左様か、何うだ別に国に帰りたくもないかえ、御府内へ住《すま》って生涯果てたいと
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