たちい》で、根津の或る料理茶屋へ昇《あが》りましたが、其の頃は主《しゅう》家来のけじめが正しく、中々若党が旦那さまの側などへはまいられませんのを、大藏は己《おれ》の側へ来いと呼び附けました。
大「林藏、大きに御苦労/\」
林「へえ、何か御用で」
大「いや独酌《ひとり》で飲んでもうまくないから、貴様と打解けて話をしようと思って」
林「恐入りましてございます、何ともはや御同席では……」
大「いや、席を隔《へだ》てゝは酒が旨くない」
林「こゝでは却《かえ》って気が詰りますから、階下《した》で戴きとう存じます」
大「いや、酒を飲んだり遊ぶ時には主《しゅう》も家来も共々にせんければいかん、己の苦労する時には手前にも共々に苦労して貰う、これを主従苦楽を倶《とも》にするというのだ」
林「へえ、恐入ります、手前などは誠に仕合せで、御当家さまへ上《あが》りまして、旦那さまは誠に何から何までお慈悲深く、何様《どん》な不調法が有りましても、お小言も仰《おっし》ゃらず、斯ういう旦那さまは又とは有りません、手前が仕合《しあわせ》で、此の間も吉村さまの仁介《ねすけ》もお羨《うらや》ましがっていましたが、私《わたく
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