か」
源「へえ是は何《なん》のお薬で」
大「最早血判致したから、何も遠慮をいたすには及ばんが、一大事で、お控えの前次様は御疳癖が強く、動《やゝ》もすれば御家来をお手討になさるような事が度々《たび/\》ある、斯様な方がお世取《よとり》に成れば、お家の大害《だいがい》を惹出《ひきいだ》すであろう、然《しか》る処幸い前次様は御病気、殊《こと》にお咳が出るから、水飴の中へ此の毒薬を入れて毒殺をするので」
源「え……それは御免を蒙《こうむ》ります」
大「何《なん》だ、御免を蒙るとは……」
源「何だって、お忍びで王子へ入らっしゃる時にお立寄がありまして、お十三の頃からお目通りを致しました前次様を、何かは存じませんが、私《わたくし》の手からお毒を差上げますことは迚《とて》も出来ません」
 というと、神原四郎治がキリヽと眦《まなじり》を吊《つる》し上げて膝を進めました。

        十九

神原「これ源兵衞、手前は何のために血判をいたした、容易ならんことだぞ、お家のためで、紋之丞[#「紋之丞」は底本では「紋之亟」]様が御家督に成れば必らずお家の害になることを存じているから、一家中の者が心配して、
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