置きますと、渡邊織江の家来|船上忠助《ふながみちゅうすけ》という者の妹お菊《きく》というて、もと駒込《こまごめ》片町《かたまち》に居り、当時|本郷《ほんごう》春木町《はるきちょう》にいる木具屋岩吉《きぐやいわきち》の娘がありました。今年十八で器量はよし柔和ではあり、恩人織江の口入《くちいれ》でありますから、早速其の者を召抱えて使いました。大藏は物事が行届《ゆきとゞ》き、優しくって言葉の内に愛敬があって、家来の麁相《そそう》などは知っても咎《とが》めませんから、家来になった者は誠に幸いで、屋敷中の評判が段々高くなって来ました。折しも殿様が御病気で、次第に重くなりました。只今で申しますと心臓病とでも申しますか、どうも宜しくない事がございます。只今ならば空気の好《よ》い処とか、樹木の沢山あります処を御覧なすったら宜かろうというので、大磯とか箱根とかへお出《い》でが出来ますが、其の頃では然《そ》うはまいりません。然《しか》るに奥様は松平和泉守《まつだいらいずみのかみ》さまからお輿入《こしい》れになりましたが、四五年|前《ぜん》にお逝去《かくれ》になり、其の前《まえ》から居りましたのはお秋《あき
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