晩は宜《よ》い間《ま》にお目に懸れました」
春「他《ひと》に知れてはならんが、今夜は雪が降って来たので、廻りの者も自然役目を怠って、余りちょん/\叩いて廻らんようだが、先刻《さっき》ちょいと合図をしたから、ひょっと出て来ようと存じてまいったが、此の事が伯父に知れた日にア実に困るから、他《ひと》に知れんようにして私《わし》も会いたいと思うから、来年三月|宿下《やどさが》りの折に、又例の亀井戸の巴屋《ともえや》で緩《ゆっ》くり話を致しましょう」
女「宿下《やどさがり》の時と仰しゃっても、本当に七夕様のようでございますね、一年に一度しきゃアお目通りが出来ないのかと思いますと、此の頃では貴方の夢ばかり見て居りますよ、私《わたくし》は思いの儘なことを書いて置きましたから、これを篤《とっ》くり見て下されば分りましょう、私の身にかゝる事がございますからお持ち遊ばせ」
 と渡す途端に後《うしろ》から突然《だしぬけ》に大声で、
大「火の廻り」
 という。二人は恟《びっく》り致しまして、後《あと》へ退《の》き、女は慌《あわ》てゝ開き戸を締めて奥へ行《ゆ》く。彼《か》の春部という若侍も同じく慌てゝお馬場口の
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