方へ遁《に》げて行く。大藏は密《そっ》と後《あと》へ廻って、三尺の開戸《ひらきど》を見ますと、慌てゝ締めずにまいったから、戸がばた/\煽《あお》るが、外から締りは附けられませんから石を支《か》って置きまして、独言《ひとりごと》に、
大「困ったな、女が手紙を出したようだが、男の方で取ろうという処を、己が大きな声で呶鳴《どな》ったから、驚いたものか文を落して行った、これは宜《よ》い物が手に入《い》った」
 と懐へ入れて詰所へ帰り、是から同役と交代になります。
大「此の手紙をいつぞは用に立てよう」
 と待ちに待って居りました。彼《か》の春部というものは、お小姓頭を勤め十五石三人扶持を領し、秋月の甥《おい》で、梅三郎《うめさぶろう》という者でございます。お目附の甥だけに羽振が宜しく、お父《とっ》さまは平馬《へいま》という。梅三郎は評判の美男《びなん》で、婀娜《あだ》な、ひんなりとした、芝居でいたせば家橘《かきつ》か上《のぼ》りの菊の助でも致しそうな好男《いゝおとこ》で、丁度其の月の二十八日、春部梅三郎は非番のことだから、用達《ようた》し旁々《かた/″\》というので、根津の下屋敷を出まして、上野
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