。或日お客来で御殿の方は混雑致しています時、大藏が長局《ながつぼね》の塀の外を一人で窃かに廻ってまいりますと、沢山ではありませんが、ちら/\と雪が顔へ当り、なか/\寒うござります、雪も降止みそうで、風がフッと吹込む途端、提灯の火が消えましたから、
大「あゝ困ったもの」
 と後《あと》へ退《さが》ると、長局の板塀の外に立って居る人があります。無地の頭巾《ずきん》を目深《まぶか》に被りまして、塀に身を寄せて、小長い刀を一本差し、小刀《しょうとう》は付けているかいないか判然《はっきり》分りませんが、鞘の光りが見えます。
大「はてな」
 と大藏は後《あと》へ退《さが》って様子を見ていました。すると三尺の開口《ひらきぐち》がギイーと開《あ》き、内から出て来ました女はお小姓姿、文金《ぶんきん》の高髷《たかまげ》、模様は確《しか》と分りませんが、華美《はで》な振袖で、大和錦《やまとにしき》の帯を締め、はこせこと云うものを帯へ挟んで居ります。器量も判然《はっきり》分りませんが、只色の真白《まっしろ》いだけは分ります。大藏は心の中《うち》で、ヤア女が出たな、お客来の時分に芸人を呼ぶと、毎《いつ》も下屋敷
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