此方等《こちとら》は狼藉者でも出ると、真先《まっさき》に逃出し、悪くすると石へ蹴つまずいて膝ア毀《こわ》すたちでありますよ、恐入りますな」
大「御家中《ごかちゅう》で万事に心附《こゝろづき》のある方は渡邊殿と秋月殿である、寒かろうから寒さ凌《しの》ぎに酒を用いたら宜かろうと云って、御酒《ごしゅ》を下すったが、斯様な結構な酒はお下屋敷にはないから、此の通り徳利《とくり》を提げて来た、一升ばかり分けてやろう別に下物《さかな》はないから、此銭《これ》で何ぞ嗜《すき》な物を買って、夜蕎麦売《よそばうり》が来たら窓から買え」
仁「恐れ入りましたな、何ともお礼の申そうようはございません、毎《いつ》もお噂ばかり申しております実に余り十分過ぎまして……」
大「雪が甚《ひど》く降るので手前達も難儀だろう、私《わし》一人で宜しい提灯と赤合羽を貸せ/\」
 と竹の饅頭笠を被《かぶ》り、提灯を提げ、一人で窃《ひそ》かに廻りましたが却《かえ》ってどか/\多勢《おおぜい》で廻ると盗賊は逃げますが、窃かに廻ると盗賊も油断して居りますから、却って取押えることがあります。無提灯でのそ/\一人で歩くのは結句用心になります
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