本当でごぜえます、旧《もと》の公方《くぼう》さまから戴いた物で、家《いえ》にも身にも換えられねえと云って大事にしている宝だから、毀した者は指を切れという先祖さまの遺言状《かきつけ》が伝わって居るので、指を切られた奴が四五人あります」
母「おゝ怖いこと、其様《そん》な怖い処へ此の娘《こ》を奉公に遣《や》られますかね、とても遣られませんよ、何うして怖《おっか》ない、皿を毀した者の指を切るという御遺言《ごゆいごん》だか何だか知らんけれども、其の皿を毀したものゝ指を切るなんぞとは聞いても慄《ぞっ》とするようだ、何うして/\、人の指を切ると云うような其様な非道の心では、平常《ふだん》も矢張《やっぱ》り酷《ひど》かろう、其様な処へ奉公がさせられますものか、痩せても枯れても遠山龜右衞門の娘《むすめ》じゃアないか、幾許|零落《おちぶれ》ても、私は死んでも生先《おいさき》の長いお前が大切で私は最《も》う定命《じょうみょう》より生延びている身体だから、私の病気が癒ったって、お前が不具《かたわ》になって何うしましょう、詰らぬ事を云い出しましたよ、苦し紛れに悪い思案、何うでも私は遣りませんよ」
千「然《そ》う
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