なんて、そんな挨拶があるものか」
丹「はい御免なせえまし、それじゃア、死なねえまでもお上んなせえ」
千「お前もう心配しておくれでない」
丹「はい」
千「お母さま、あの先刻|桑田《くわだ》さまが仰しゃいました人参のことね」
母「はい聞いたよ」
千「あれをあなた召上れな、人参という物は、なに其様《そんな》に飲みにくいものでは有りませんと、少し甘味がありまして」
母「だってお前、私は飲みたくっても、一箱が大金という其様《そん》なお薬が何うして戴かれますものか」
千「その薬をあなた召上るお気なら、私《わたくし》が才覚して上げますが……」
母「才覚たってお前、家《うち》には売る物も何も有りゃアしないもの」
千「私《わたくし》をあのう隣村の東山作左衞門という郷士の処へ、道具係の奉公に遣《や》って下さいましな」
其の時母は皺枯れたる眉にいとゞ皺を寄せまして、
母「お前、飛んでもない事をいう、丹治お前も聞いて知ってるだろうが、作左衞門の家《うち》では道具係の奉公人を探していて、大層給金を呉れる、其の代りに何とかいう宝物《たからもの》の皿を毀すと指を切ると云う話を聞いたが、本当かの」
丹「えゝ、それは
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