遅れました、彼《あ》の節は何ともお礼の申そうようもございません、喜六やお前|一寸《ちょっと》此方《こちら》へ出て、宜くお礼を」
喜「はい旦那さま、彼《あ》の折《おり》は何ともはアお礼の云う様《よう》もござえません、私《わし》なんざアこれもう六十四になりますから、何もこれ彼奴等《あいつら》に打殺《ぶちころ》されても命の惜《おし》いわけはなし、只私の不調法から旦那様の御名義ばかりじゃアねえ、お屋敷のお名前まで出るような事があっちゃア済まねえと覚悟を極めて、私一人|打殺《ぶっころ》されたら事が済もうと思ってる所へ、旦那様が出て何ともはアお礼の申《もうし》ようはありません、見掛けは綺麗な優しげな、力も何もねえようなお前様が、大の野郎を打殺《うちころ》しただから、お侍は異《ちが》ったものだと噂をして居りました」
大「然《そ》う云われては却《かえ》って困る、これは御奉公人で」
喜「はい私《わし》ア何《なん》でござえます、お嬢さまが五才《いつゝ》の時から御奉公をして居り、長《なが》え間これ十五年もお附き申していますからお馴染《なじみ》でがす、彼《あ》の時お酒が一口出たもんだから、お供だで少し加減をす
前へ 次へ
全470ページ中113ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング