止むを得ざる事で、表へ出てお相手になろう」
 とずいと提《ひっさ》げ刀《がたな》で立つと、他の者が之を見て。
○「泥棒ッ」
△「人殺しい/\」
 と自分が斬られる訳ではないが、遽《あわ》てゝ逃出すから、煙草盆を蹴散《けちら》かす、土瓶を踏毀《ふみこわ》すものがあり、料理代を払って往《ゆ》く者は一人もありません、中に素早い者は料理番へ駈込んで鰆を三本|担《かつ》ぎ出す奴があります。彼《か》の三人は真赤な顔をして、
甲「さ来い」
浪「然《しか》らばお相手は致しますが、宜くお心を静めて御覧《ごろう》じろ、さして御立腹のあるべき程の粗相でもないに、果合《はたしあ》いに及んでは双方の恥辱になるが宜しいか」
乙「えゝ、やれ/\」
 と何うしても肯《き》きません、酒の上で気が立って居ります、一人が握拳《にぎりこぶし》を振って打掛るを早くも身をかわし、
浪「えい」
 と逆に捻倒《ねじたお》した手練《てなみ》を見ると、余《あと》の二人がばら/\/\と逃げました。前に倒れた奴が口惜《くや》しいから又起上って組附いて来る処を、拳《こぶし》を固めて脇腹の三枚目(芝居でいたす当身《あてみ》をくわせるので)余り食
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