すっと味噌汁が流れました。流石《さすが》温和の仁も忽《たちま》ち疳癖が高ぶりましたが、じっと耐《こら》え、
浪「どうか御勘弁を願います、それゆえ身不肖ながら主人たる手前が成代ってお詫をいたすので、幾重にも此の通り……手を突く」
甲「手を突いたって不礼を働いた家来を此方《こっち》へ申し受けよう、然《そ》うして此方の存じ寄にいたそう」
浪「それは貴方御無理と申すもの、何も心得ん山出しの老人ゆえ、相手になすった処がお恥辱になればとて誉れにもなりますまい、斬ったところが狗《いぬ》を斬るも同様、御勘弁下さる訳には相成りませんか」
乙「ならんければ何ういたした」
浪「ならんければ致し方がない」
甲「斯う致そう、当家《こゝ》でも迷惑をいたそうから、表へ出て、広々した飛鳥山の上にて果合《はたしあ》いに及ぼう」
浪「何も果合いをする程の無礼を致した訳ではござらん」
甲「無いたって食物《くいもの》の中へ泥草履を投込んで置きながら」
浪「手前は此の通り病身で迚《とて》もお相手が出来ません」
甲「出来んなら尚宜しい、さ出ろ、病身結構だ、広々した飛鳥山へ出て華々しく果合いをしなせえ、最《も》う了簡|罷《まか》り
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