りがた》う存《ぞん》じます、是《これ》は何《ど》うも大層《たいそう》奇麗《きれい》なお薬で。殿「ウム、早く云《い》へば水銀剤《みづかねざい》だな。登「へえー、之《これ》を飲《のみ》ましたら喉《のど》が潰《つぶ》れませう。殿「ナニ大丈夫《だいぢやうぶ》だ、決して左様《さやう》な心配はない良《よ》く喉《のど》が潰《つぶ》れても病気さへ癒《なほ》れば夫《それ》で宜《よ》からう。登「イエ喉《のど》が潰《つぶ》れては困ります。殿「ナニ心配する事はない、コレ井上《ゐのうへ》此所《これ》へ出《で》い、序《ついで》に其方《そのはう》も診《み》て遣《つか》はすから。井上「有難《ありがた》うは存《ぞん》じますが、何分《なにぶん》裸体《はだか》になりますのを些《ち》と憚《はゞか》ります儀《ぎ》で、生憎《あいにく》今日《けふ》は下帯《したおび》を締《し》めて参《まゐ》りませぬから。殿「イヤ許す、其様《そん》な事は毫《すこし》も構《かま》はぬ、トントン何《ど》うぢやナ。井上「ア、何《ど》うも痛《いた》うござります、さう無闇《むやみ》にお叩《たき》きなすつちやア堪《たま》りませぬ。殿「まア黙《だま》つて居《を》れ、アヽ是《これ》は余程《よほど》熱《ねつ》がある。井上「へえー熱《ねつ》がござりますか。殿「ウム、四十九|度《ど》許《ばかり》ある。井上「其様《そんな》にある訳《わけ》はござりませぬ、夫《それ》ぢやア死んで了《しま》ひますから。殿「アヽ成程《なるほど》、三十七|度《ど》一|分《ぶ》あるの、時々《とき/″\》悪寒《をかん》する事があるだらう。井上「左様《さやう》でござります。殿「ハー是《これ》は瘧《ぎやく》だナ。井上「いゝえ瘧《ぎやく》とは心得《こゝろえ》ませぬ。殿「これ/\何《なん》でも医者《いしや》の云《い》ふ通《とほり》になれ、素人《しろうと》の癖《くせ》に何《なに》が解《わか》るものか、是《これ》は舎利塩《しやりえん》を四匁《しもんめ》粉薬《こぐすり》にして遣《つか》はすから、硝盃《コツプ》に水を注《つ》ぎ能《よ》く溶《と》いて然《さ》うして飲《の》め、夫《それ》から規那塩《きなえん》を一|分《ぶん》入《い》れる処《ところ》ぢやが、三|分《ぶ》も加《くは》へよう。井上「其様《そんな》に貴方《あなた》劇剤《げきざい》を分度外《ぶんどぐわい》にお入《いれ》になりましては豪《えら》い事
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