のだが、お前《まへ》は塩原《しほばら》といふ炭問屋《すみどんや》へ嫁《よめ》になつた事が有《あ》るさうだ」「いゝえ、炭問屋《すみどんや》は疾《と》うに潰《つぶ》れて、お厩橋《うまやばし》へ来《き》た時|私《わたくし》が縁付《えんづ》いたのです」「お前《まへ》の御亭主《ごていしゆ》は」「秀《ひで》三|郎《らう》と云《い》つて五代目でございます」「早く死んだのかえ」「へえ、少し気《き》が違《ちが》つて早く死にました」と云《い》ふから、成程《なるほど》是真翁《ぜしんをう》の話の通《とほ》り祟《たゝ》つたのだなと思ひ当《あた》りました。「お前《まへ》さんの所に何《なに》か書物《かきもの》はありませぬかえ――御先祖《ごせんぞ》塩原多助《しほばらたすけ》の書類《しよるゐ》か何《なに》か残《のこ》つてゐませぬか」「何《なに》も有《あ》りませぬ、少しは残《のこ》つてゐた物も有《あ》りましたが、此前《このまへ》の火事で焼《や》けましたから、書付類《かきつけるゐ》はありませぬが、御先祖様《ごせんぞさま》の着た黒羽二重《くろはぶたへ》に大きな轡《くつわ》の紋《もん》の附《つ》いた着物が一枚あります。それは二
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