う考えるのでおす」
 鳶「おう、おう番頭さん、詰らねえ事を云っちゃアいけねえぜ、お前《めえ》は全体《ぜんてえ》粂どんを憎むから然《そ》う思うんだが、まアよく考えて見ねえ、粂どんが人殺をするような人だか何だか、ソヽ其様《そん》な解らねえ事をいったって仕様がねえじゃアねえか」
 番「イヤ真実《まったく》の事だ、証拠があるぜ」
 鳶「証《しょう》、な何が証拠だ」
 番「定吉い、ちょっと此処《こゝ》へ来い、えゝめろ/\泣くな」
 定「何です番頭《ばんつ》さん、泣くなたってお嬢様が死んで哀しくって堪《たま》らないから、泣くんです」
 番「えゝい、汝《おのれ》がお嬢様を殺したもおんなじ事《こっ》た」
 定「あゝいう無理な事ばかりいうんだもの、どういう理由《わけ》で」
 番「汝《おのれ》は一昨日《おととい》の夜《よ》この店で帯を締め直す時に落した手紙は、お嬢|様《さん》に頼まれて粂之助の処へ届けようとしたのじゃないか」
 定「あら………仕様がないな、彼所《あすこ》に持っているのだもの、道理で無いと思った」
 番「此様《こん》なものをお嬢様から頼まれるのが悪いのだ」
 定「頼まれるのが悪いたって………仕様がないナ………その頼まれたのはなんでございます………仕様がないな………あの……それはお嬢|様《さん》が、定や、ちょいとお出でてえから、はいてってお居間へ行ったんです、然《そ》うするとお前|何所《どこ》へ行《ゆ》くんだと仰しゃるから、私《わたくし》は谷中の方へ参るんですといったら、そんならお前これを粂どんに届けてお呉れって、お手紙を私の懐へ入れたから持って行ったんです」
 番「ウム、持って行って何うした」
 定「何うしたって……しようがないな」
 番「汝《おのれ》は度々《たび/\》粂之助の処《とこ》へ寄るから悪いのじゃ」
 定「ナニ寄る気でもないんですが、近いから、あのお寺の前を通ると曲角《まがりかど》のお寺だもんですから、よく門の所《とこ》なんぞを箒《は》いてゝ、久振《ひさしぶり》だ、お寄りなてえから、ヘイてんで旧《もと》は朋輩《ほうばい》だから寄りますね」
 番「道理で毎《いつ》も使《つかい》が長いのや」
 定「ナニ別に長い訳もないんですが、今お葬式《とむらい》が来てお饅頭を貰った、それをお前に上げるから、お待ちてえから待ってたんです」
 番「えゝい、喰《くら》い物の事ばかり云うて居《お》る。汝《おのれ》が取次をするから此の様な間違が出来《でけ》たのや、サ是を御覧、此の手紙が何よりの証拠や、私《わたい》はお前に逢いとうて逢いとうてならぬから、家出をしてお前の処《とこ》へ行《ゆ》く、何卒《どうぞ》末長く見捨てずに置いておくれと書いてあるやないか、是が何よりの証拠や」
 鳶「証拠だッて、そんな事は私《わっし》ア知りやアしねえ」
 番「知りやせぬと云うてまアよく考えて見なはれ、当家《うち》のお内儀様《いえはん》はこないに諦めの宜《え》えお方やから、涙一滴|澪《こぼ》さぬが、鳶頭が仲へ這入って口を利き、もう甲州屋の家《うち》へは足踏をさせぬと云い切って引取ったのやないか、それじゃのに、又|此処《こゝ》へ粂之助が忍んで来て、お嬢|様《さん》を誘い出すような事になったのは、大方鳶頭も内々《ない/\》知って居《お》るのではないか、粂之助と共謀《ぐる》になってお嬢様を誘い出し、金額《かね》を半分ぐらい取ったのではないかアと思われても是非がないやないか」
 云うと怒《おこ》ったの怒らないの、もと正直な人だから、額へ青筋を出して、
 鳶「何を吐《ぬか》しやアがるんでえ、撲《なぐ》り付けるぞ、コレ頭を禿《はげ》らかしやアがって馬鹿も休み休み云え、粂どんが人を殺して金を取る様な人か人でねえか大概《てえげえ》解りそうなもんだ、手前《てめえ》の心に識別ウするから其様《そんな》事を吐《ぬか》すんだ、己が半分取ったたア何だ、撲り付けるぞ」
 番「打《ぶ》たいでも宜《え》え、私《あたい》は理の当然をいうのや、お嬢|様《さま》を殺して金子《かね》を取ったという訳じゃないが、然《そ》う思われても是非がないと云うのや」
 鳶「何が是非がないんだ、撲倒《はりたお》すぞ」
 清「まア/\少し待っておくれ」
 と云いながら台所より出て来たは清助というお飯炊《まんまたき》。
 清「鳶頭まア/\貴方《あんた》は正直な方だから、こんな事を云われたら、嘸《さぞ》はア胆《きも》が焦《い》れて堪《たま》るめえが、己が一と通りいわねばなんねえ事があるだアから、少し待ったが宜《え》え――コレ番頭さん、此処《こゝ》へ出ろ」
 番「何じゃ、汝《おのれ》が出る幕じゃアない、汝は飯炊《めしたき》だから台所に引込《ひっこ》んで、飯の焦《こげ》ぬように気を附けて居《お》れ、此様《こない》な事に口出しをせぬでも宜《
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