え》いわ」
 清「成程己は僅《わずか》なお給金を戴いて飯炊をしてえるからッて、飯せえ焦がさねえようにしていれば宜《え》えというもんじゃアあんめえ、当家《うち》へ泥坊が這入《へい》ってお内儀様《かみさん》を斬殺《きりころ》しても、己が飯炊だからって、何《なん》にも構わずに竈《へっつい》の前《めえ》にぶっ坐《つわ》ってゝ宜えと思わしゃるか、汝《われ》が曲った心に識別するから然《そ》ういう間違った事をいうだ、コレよく考《かんげ》えて見ろよ、汝は粂どんを憎むから、少しのことを廉《かど》に取って粂どんが嬢様《じょうさま》を殺したなんてえが、何処《どこ》までも汝がそんな事を頑張って殺したといわば、己《おら》ア合点《がってん》しねえだ、粂どんが庭へ来てお嬢様と相談して、明日《あした》の晩連れて逃げようてえ約束をしたのを見たと云わば、何故早く其の事をお内儀様へ知らせねえだ、粂どんがコソ/\でお嬢様を誘い出しに来やしたから、油断をしねえが宜《よ》うがすとちょっと知らせればそれで宜《え》えだ、然うすれば直《す》ぐにお嬢様を他家《わき》へ預けるとか、左《さ》もなければお内儀様が気イ附けて奉公人も皆起きて居《お》らば、何うしたって嬢様が逃げ出す気遣《きづけえ》はねえだ、逃げなけりゃア殺されることもねえだ、それを知って居ながら黙ってゝ、嬢様が逃出してから殺されゝば、汝が殺したも同じ事《こん》だぞ、まだぐず/\何か云やアがると打《ぶ》っ殺して己《おれ》も死んじまうだ」
 内儀「コレ/\清助静かにしないか、番頭|様《さん》に向ってそんな事をいっては済まないじゃないか、鳶頭、お前も嘸《さぞ》腹が立つだろうが、何卒《どうぞ》我慢をしておくれ、悉皆《みんな》私が呑込んでいるから、私は決して粂之助の仕業《しわざ》とは思わないけれども、大方粂之助も此の事を知らずに谷中に居るに違いない、お前が行って斯《こ》う/\と知らせたら、粂之助も定めて恟《びっく》りするだろうと思うから、お願いだが、お前ちょいと此の事を粂之助へ知らせてお呉れでないか」
 鳶「え、往《い》きますとも、半分取ったろうなんて、飛んでもねえ濡衣《ぬれぎぬ》を着せられたんですもの、直《すぐ》に行って来ます、少し提灯《ちょうちん》をお貸しなすって」
 ずうっと腹立紛《はらたちまぎれ》に飛びだして谷中の長安寺へやって来ました。
 鳶「え、御免なせえ、御免なせえ」
 粂「はい……おや/\鳶頭」
 鳶「や、粂どん……まア宜《よ》かった、はあ…お前《めえ》に怪しい事があれば何所《どっ》かへ逃げちまうんだが、ちゃんと此処《こゝ》に居てくれたんでまア宜かった、あゝ有難《ありがて》え」
 粂「あの兄《あに》さん、何だか鳥越の鳶頭がおいでなさいましたよ」
 玄「いやア、鳶頭、まあ何卒《どうぞ》此方《こちら》へ誠に何《ど》うも御無沙汰をして済まぬ、ちょっとお礼かた/″\お訪ね申さんければならぬのじゃが、何分にも寺用《じよう》に取紛れて存じながら大きに御無沙汰を……」
 鳶「そう長ったらしく云ってられちゃア困る、大騒動が出来たんだ、まア御挨拶は後《あと》にしておくんなせえ、おゝ粂どん、お嬢様が昨夜《ゆうべ》家出をした事を知ってるかい」
 粂「いゝえ…………」
 鳶「いゝえって震えたぜ、え、おい、お嬢様が殺されちまったんだよ」
 粂「えっ、お嬢様が……」
 鳶「死骸が弁天の池から今朝上がって、御検視を願うの何《なん》のって大騒ぎをしたんだ」
 粂「へえー……じゃア千駄木の植木屋の九兵衞さんというのは何です、全体まア何ういう理由《わけ》なんです」
 鳶「何ういう理由の何のって、大変な騒ぎなんで、まア和尚|様《さん》お聴《きゝ》になって下せえまし、お嬢様は粂どんに逢いてえ一心から、莫大《ばくでえ》の金子《かね》を持《もっ》て家出をしたから、大方泥坊に躡《つ》けられて途中で遣《や》るの遣らねえのといったもんだから、殺されたに違《ちげ》えねえんで、それを店の番頭野郎がこう吐《ぬか》すんだ、何《な》んでも粂どんがお嬢様を誘い出して、途中で殺して金子を取ったに違えねえ、鳶頭も粂どんと共謀《ぐる》になって、其の金を二十五両ぐらい取ったろう、こう吐すんだ、私《わっし》は腹が立って堪らねえから、余程《よっぽど》殴りつけてやろうとは思ったけれども、お前《めえ》さん何うもね、お内儀様《かみさん》が御愁傷の中だから、そんな乱暴狼藉[#「狼藉」は底本では「狼籍」と誤記]の真似をしちゃア済まねえと思って、耐《こら》えていたが、粂どんが何《なん》にも知らずに斯《こ》うやっているから本当に宜かった、何卒《どうぞ》直《すぐ》に行っておくんなせえ」
 玄「いや、それは重々|御道理《ごもっとも》な訳じゃ、此方《こちら》にも不行跡《ふしだら》がある事《こっ》ちゃから然《
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