う考えるのでおす」
鳶「おう、おう番頭さん、詰らねえ事を云っちゃアいけねえぜ、お前《めえ》は全体《ぜんてえ》粂どんを憎むから然《そ》う思うんだが、まアよく考えて見ねえ、粂どんが人殺をするような人だか何だか、ソヽ其様《そん》な解らねえ事をいったって仕様がねえじゃアねえか」
番「イヤ真実《まったく》の事だ、証拠があるぜ」
鳶「証《しょう》、な何が証拠だ」
番「定吉い、ちょっと此処《こゝ》へ来い、えゝめろ/\泣くな」
定「何です番頭《ばんつ》さん、泣くなたってお嬢様が死んで哀しくって堪《たま》らないから、泣くんです」
番「えゝい、汝《おのれ》がお嬢様を殺したもおんなじ事《こっ》た」
定「あゝいう無理な事ばかりいうんだもの、どういう理由《わけ》で」
番「汝《おのれ》は一昨日《おととい》の夜《よ》この店で帯を締め直す時に落した手紙は、お嬢|様《さん》に頼まれて粂之助の処へ届けようとしたのじゃないか」
定「あら………仕様がないな、彼所《あすこ》に持っているのだもの、道理で無いと思った」
番「此様《こん》なものをお嬢様から頼まれるのが悪いのだ」
定「頼まれるのが悪いたって………仕様がないナ………その頼まれたのはなんでございます………仕様がないな………あの……それはお嬢|様《さん》が、定や、ちょいとお出でてえから、はいてってお居間へ行ったんです、然《そ》うするとお前|何所《どこ》へ行《ゆ》くんだと仰しゃるから、私《わたくし》は谷中の方へ参るんですといったら、そんならお前これを粂どんに届けてお呉れって、お手紙を私の懐へ入れたから持って行ったんです」
番「ウム、持って行って何うした」
定「何うしたって……しようがないな」
番「汝《おのれ》は度々《たび/\》粂之助の処《とこ》へ寄るから悪いのじゃ」
定「ナニ寄る気でもないんですが、近いから、あのお寺の前を通ると曲角《まがりかど》のお寺だもんですから、よく門の所《とこ》なんぞを箒《は》いてゝ、久振《ひさしぶり》だ、お寄りなてえから、ヘイてんで旧《もと》は朋輩《ほうばい》だから寄りますね」
番「道理で毎《いつ》も使《つかい》が長いのや」
定「ナニ別に長い訳もないんですが、今お葬式《とむらい》が来てお饅頭を貰った、それをお前に上げるから、お待ちてえから待ってたんです」
番「えゝい、喰《くら》い物の事ばかり云う
前へ
次へ
全28ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング