《こ》ういう理由なんでげす、あのお嬢さんが二歳《ふたつ》の時に、私《わっし》の母親《おふくろ》がお乳を上げたんで、まア外《ほか》に誰も相談相手が無いからって、訪ねておいでなすったから、母親もびっくりして、まアお嬢さん、今時分何ういう理由《わけ》で入らしったてえと、犬に吠えられたり何かして、命からがら漸《ようよ》うの事でお前の処《とこ》へ来た理由は、誠に乳母《ばあ》や面目ないが、長らく宅《うち》に勤めて居た手代の粂之助というものと、人知れず懇《ねんごろ》を通じて夫婦約束をした、処がお母《っか》さんが世間の口がうるさいから一時《いちじ》斯《こ》うはするものゝ、後《のち》には必ず添わせてやると仰しゃって、粂之助に暇《いとま》を出して了《しま》った後《あと》で、外《ほか》から聟を取れと仰しゃる、それじゃアどうも粂之助に義理が済まないから、私は斯うやって駈出したんだと仰しゃるんです、そうすると私《わっし》の母親は胆《きも》をつぶしてね、素《す》ッ堅気《かたぎ》だから、なか/\合点《がってん》しねえ、それはお嬢|様《さん》飛んでもない事で、お店の奉公人や何かと私通《いたずら》をするようなお嬢様なら、私の処へは置きませぬ、只《た》った今出てお出《いで》なせえというから、私《わっし》が仲裁をして、まアお母《っか》ア待ちねえ、そうお前《めえ》のように頑固《かたくな》なことばかりいっちゃアしょうがねえ、折角頼りに思っておいでなすったお前まで、そんな邪険な事を云ったら娘心の一筋に思い詰め、此家《こゝ》から又駈出して途中|散途《さんと》で、何様《どん》な軽はずみな心を出して、間違《まちげ》えがねえとも限らねえ、まア/\己のいう通りにして居ねえといって、それからお嬢様を此方《こっち》へ呼んでお母《ふくろ》はあんな事を云いますが、お前《まえ》さんは何処《どこ》までも粂之助|様《さん》と添いたいという了簡があるなれば、私《わっし》がまア何うにでもしてお世話を致しましょう、貴方はお宅《うち》を勘当されても、粂之助様と添遂げるという程の御決心がありますかてえと、屹度《きっと》遂げます、一旦粂之助も私と夫婦約束をしたのですもの、確《たしか》に私を見捨てないという事もいいましたし、又そんな不実な人ではありませぬ、じゃア宜《よ》うがすが、何処か行《ゆ》く所がありますかと云うと、何処も目的《あて》がねえ、こ
前へ 次へ
全28ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング