きん》だ、よく見て覚《おぼ》えて置け。弥「へえー紫色《むらさきいろ》のいんきんだえ、あれは癢《かゆ》くつていけねえもんだ。長「何《なん》だ其様《そん》な尾籠《びろう》なことを云《い》つちやアなりませんよ、結構《けつこう》な御軸《おぢく》でございますと云《い》ふんだ、出して見せるか掛《か》けて見せるか知らんけれども掛《か》けて有《あ》つたら先《ま》づ辞儀《じぎ》をして、一|応《おう》拝見《はいけん》して、誠にどうもお仕立《したて》と申《まう》し、お落着《おちつき》のある流石《さすが》は松花堂《しようくわだう》はまた別でございます、あゝ結構《けつこう》な御品《おしな》で、斯様《かやう》なお道具《だうぐ》を拝見《はいけん》致《いた》すのは私共《わたくしども》の眼《め》の修業《しゆげふ》に相成《あひな》りますと云《い》つて、身《み》を卑下《ひげ》するんだ。弥「ひげするんなら、角《かど》の髪結床《かみゆひどこ》へ往《い》きやア直《ぢき》だ。長「髯《ひげ》を剃《する》んではない、吾身《わがみ》を卑《いや》しめるんだ、然《さ》うすると先方《むかう》では惚込《ほれこ》んだと思ふから、お引取《ひきとり》値段《ねだん》をと来《く》る、其時《そのとき》買冠《かひかぶ》りをしないやうに、其《そ》の掛物《かけもの》へ瑾《きず》を附《つ》けるんだ。弥「へえ、それは造作《ざふさ》もねえ、破《やぶ》くか。長「破《やぶ》く奴《やつ》が有《あ》るか、知れねえやうに瑾《きず》を附《つ》けるのが道具商《だうぐや》の秘事《ひじ》だよ。弥「フヽヽ「ヒヂ」は道具商《だうぐや》より畳職《たゝみや》の方《はう》がつよいで。長「黙《だま》つて人の云《い》ふことを聞け、醋吸《すすひ》の三|聖《せい》は結構《けつこう》でございます、なれども些《ち》と御祝儀《ごしゆうぎ》の席には向きませんかと存《ぞん》じます、孔子《こうし》に老子《らうし》、釈迦《しやか》は仏《ぶつ》だからお祝《いは》ひの席には掛《か》けられませんと、買つてくれと云《い》はれないやうに瑾《きず》を見出《みいだ》して、惜《をし》い事《こと》には何《ど》うも些《ち》と軸《ぢく》ににゆう[#「にゆう」に傍点]が有《あ》りますと云《い》つてにゆう[#「にゆう」に傍点]なぞを見出《みいだ》さなくツちやアいかねえ。弥「へえー……「にゆう」てえのは坊《ばう》さまかい。長
前へ 次へ
全11ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング