だ、先方《むかう》で己《おれ》の顔を知らんから、お前《まへ》己《おれ》の積《つもり》で代《だい》に往《い》け。弥「へえゝ……代《だい》てえのは……。長「己《おれ》の代《かは》りに往《い》くんだ。弥「ハヽヽそれぢやア私《わたし》が此《こ》の身上《しんしやう》を貰《もら》ふのだ。女房「御覧《ごらん》なさい、馬鹿《ばか》でも慾張《よくば》つて居《ゐ》ますよ。長「黙《だま》つてゐな、己《おら》ア馬鹿《ばか》が好《すき》だ……其儘《そのまゝ》却《かへ》つて綿服《めんぷく》で往《ゆ》け、先方《むかう》へ往《ゆ》くと寄附《よりつ》きへ通《とほ》すか、それとも広間《ひろま》へ通《とほ》すか知らんが、鍋島《なべしま》か唐物《からもの》か何《なに》か敷《し》いて有《あ》るだらう、囲《かこ》ひへ通《とほ》る、草履《ざうり》が出て居《ゐ》やう、露地《ろぢ》は打水《うちみづ》か何《なに》かして有《あ》らう、先方《せんぱう》も茶人《ちやじん》だから客は他《ほか》になければお前《まへ》一人だから広間《ひろま》へ通《とほ》すかも知れねえが、お前《まへ》は辞儀《じぎ》が下手《へた》で誠に困る、両手をちごはごに突《つ》いてはいけねえよ、手の先《さき》と天窓《あたま》の先《さき》を揃《そろ》へ、胴《どう》を詰《つ》めて閑雅《しとやか》に辞儀《じぎ》をして、かね/″\お招《まね》きに預《あづ》かりました半田屋《はんだや》の長兵衛《ちやうべゑ》と申《まう》す者で、至《いた》つて未熟《みじゆく》もの、此後《こののち》ともお見知《みし》り置《お》かれて御懇意《ごこんい》に願ひますと云《い》ふと、先《まづ》此方《こちら》へと、鑑定《めきゝ》をして貰《もら》ふ積《つも》りで、自慢《じまん》の掛物《かけもの》は松花堂《しやうくわだう》の醋吸《すすひ》三|聖《せい》[#「醋吸《すすひ》三|聖《せい》」の左に白丸傍点]を見せるだらう、宜《よ》い掛物《かけもの》だ、箱書《はこがき》は小堀《こぼり》権《ごん》十|郎《らう》で、仕立《したて》が慥《たし》か宜《よ》かつたよ、天地《てんち》が唐物緞子《からものどんす》、中《なか》が白茶地《しらちやぢ》の古金襴《こきんらん》で。弥「へえー……何《なに》を。長「松花堂《しようくわだう》の三|教《けう》醋吸《すすひ》の図《づ》で、風袋《ふうたい》一|文字《もんじ》が紫印金《むらさきいん
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