、相当の人格を有して居られる方だろうと信じて、これだけ緩慢に貴方の云いなりになって延期もして来たような訳ですからな、この上は一歩も仮借する段ではありません。如何なる処分を受けても苦しくないと云う貴方の証書通り、私の方では直ぐにも実行しますから」
 何一つ道具らしい道具の無い殺風景な室の中をじろ/\気味悪るく視廻しながら、三百は斯う呶鳴り続けた。彼は、「まあ/\、それでは十日の晩には屹度引払うことにしますから」と、相手の呶鳴るのを抑える為め手を振って繰返すほかなかった。
「……実に変な奴だねえ、そうじゃ無い?」
 よう/\三百の帰った後で、彼は傍で聴いていた長男と顔を見交わして苦笑しながら云った。
「……そう、変な奴」
 子供も同じように悲しそうな苦笑を浮べて云った。……

 狭い庭の隣りが墓地になっていた。そこの今にも倒れそうになっている古板塀に縄を張って、朝顔がからましてあった。それがまた非常な勢いで蔓が延びて、先きを摘んでも摘んでもわきから/\と太いのが出て来た。そしてまたその葉が馬鹿に大きくて、毎日見て毎日大きくなっている。その癖もう八月に入ってるというのに、一向花が咲かなかった
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