子をつれて
葛西善蔵
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)お菜《さい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一層|滅入《めい》った
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)町内のつきあい[#「つきあい」に傍点]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)変にしょぼ/\した眼附していた。
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
一
掃除をしたり、お菜《さい》を煮たり、糠味噌を出したりして、子供等に晩飯を済まさせ、彼はようやく西日の引いた縁側近くへお膳を据えて、淋しい気持で晩酌の盃を嘗《な》めていた。すると御免とも云わずに表の格子戸をそうっと開けて、例の立退き請求の三百が、玄関の開いてた障子の間から、ぬうっと顔を突出した。
「まあお入りなさい」彼は少し酒の気の廻っていた処なので、坐ったなり元気好く声をかけた。
「否《いや》もうこゝで結構です。一寸そこまで散歩に来たものですからな。……それで何ですかな、家が定《き》まりましたでしょうな? もう定まったでしょうな?」
「……さあ
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