つてしまつた。で自分は最後の「オーイ!」を長く叫んで、悄然として雨の中を引返したのだつた。
それからの五日間、自分は朝から飯も食はずに酒を飮み、睡むり、そしてまだ醉のさめ切らないうちに湯に飛び込んで來ては、また飮み出す――そんなことを繰返してゐたのだつた。
が、たうとう、おせいが來た翌々日、自分はまた朝から酒を飮んで、夕方、飮食物共だつたが、洗面器にほとんど三杯――殊に最後の一杯は、腐つた魚の腸のやうなものを、何の疼痛も感ぜずにドク/\と吐いてしまつた。その晩はほとんど昏睡状態だつた。夕方からの霰が、翌日は大吹雪になつてゐた。膏藥か松脂のやうな血便が、三四日續いた。それが止んだ自分にポカリとまゐるのではないかと云ふ氣もされたが、しかし無意識のうちに搜してゐたのかも知れない死場所としては、この山の湖畔はわるくないと思つた。田舍の妻子、おせいの腹の子のことで、おせいに遺言した。
「酒のせゐですから、よくあることですから、あなたが今度が初めてでしたら、決して心配なことはありませんから、力を落さないで……」
宿の主人は斯う繰返して力を附けて呉れたが、しかし結局中禪寺からおせいの分と二臺
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