血を吐く
葛西善藏
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)冗々《くど/\》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ガミ/\
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おせいが、山へ來たのは、十月二十一日だつた。中禪寺からの、夕方の馬車で着いたのだつた。その日も自分は朝から酒を飮んで、午前と午後の二囘の中禪寺からの郵便の配達を待つたが、當てにしてゐる電報爲替が來ないので、氣を腐らしては、醉ひつぶれて蒲團にもぐつてゐたのだつた。
「東京から女の人が見えました」斯う女中に喚び起されて、
「さう……?」と云つて、自分は澁い顏をして蒲團の上に起きあがつた。
おせいは今朝の四時に上野を發つて、日光から馬返しまで電車、そこから二里の山路を中禪寺までのぼり、そしてあのひどいガタ馬車に三里から搖られて來たわけだつた。自分は彼女の無鐵砲を叱責した。おせいはふだん着の木綿袷に擦り切れた銘仙の羽織
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