の山の中に引込みたいと思つてゐるのだ。自分はその時のことを考へると淋しくなる。自分のやうな人間のために多少でも婚期に影響した――そんなこともあり得ないとは、或は云へないかも知れない。
「關係してるんだらう。ないと云ふのはどうも嘘らしいな。案外君と云ふ男は何にもしてゐないやうな顏してゐて、何でもやつてるんだからな、わかりやしないよ。さうなんだらう? また君としても關係してると云つてる方が氣が樂ぢやないか」と、ある友人が私に云つたりした。
「まあさうだな。それではさう云ふことにして置くさ」と、私も苦笑するほかなかつた。
夏父を郷里に葬つて鎌倉に歸つて來ると、私はすつかりポカンとしてしまつて、それを紛らすため何年にもしたことのない海水浴に出かけて行つた。建長寺境内から由比ヶ濱まで汗を流しながら毎日通つた。海水場の雜沓は驚かれるばかりだつた。砂の上にも水の中にも、露はな海水着姿の男女が、膚と膚と觸れ合はんばかしにして、自由に戲れ遊んでゐる。さうした派手な海水着の若い女たちの縱いまゝな千姿萬態のフヰルムが、夕方寺に歸つておせいのお酌で飮み始めると、何年にも憶えない挑發的な感じで眼先きにちらつい
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