えておりました。
その中《うち》に日も暮れて、夜も更《ふ》けて、四隣《あたり》も寝静まったと思う頃、三角定木わムクムクと床を出て例の鋏をば小脇《こわき》にかかえ、さし足ぬき足で、彼《か》の画板の寝ている処え、そっと忍んで参りました。
見ると画板わ、前後も知らぬ高鼾《たかいびき》で、さも心持|快《よ》さそうに寝ておりますから、〆《し》めた! おのれ画板め、今|乃公《おれ》が貴様の角を、残らず取り払ってやるからにわ、もう明日《あした》からわ角なしだ、いくら威張っても追い付かんぞと、腹の中で散々悪態を吐《つ》きながら、突然チョキリ! 一角|切《きっ》て落しましたが、まだ気が付かない様子ですから、また一角をチョキリ! それでも眼《め》が醒《さ》めないから、こりゃよくよく寝坊だわイ、といいながら、チョキリ! チョキリ! とうとう四角とも切り落し、まずこれで溜飲《りゅういん》が下がった。どりゃ帰って寝よう、鋏さん大きに御苦労だったと、急いでわが家《や》え帰って、そのまま寝てしまいました。
さてその翌朝、何|喰《く》わぬ顔で床を出て見ますと、世間でわ大評判で、逢《あ》う者ごとに、
「画板わえら
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