に巧妙な者が今日コツトンに於て天下有數の地位を得たからと云つて少しも不思議はない。唯マンチエスターから機械を學んだと云ふだけである。之を運轉する機能と頭と指先は吾々は既にもう持つて居つた。工業に付てさへも斯の如しであります。
 近頃自由主義が宜しくない、議會政治が宜しくない、是は皆西洋の制度を學んだものだと云ふやうなことを言ひますが、議會制度を西洋から學んだと云ふことは、形は確にさうであります。併しながら我國はそれを生むべき運命を持つて居る。お話申した如く、封建時代に於ては、武士が刀を以て百姓を抑へて居つたのですが、天下泰平となつては刀では利かないで、利くのは黄金の力のみとなつた。江戸の士が非常に威張つて居つたが、年々歳々金に困つて町人から金を借りるのですが、盆暮に取るべき米の切手を抵當として町人から金を借りると云ふやうなことで、段々士族は黄金の前に頭を下げるやうになつて、終ひには江戸の町人は大名の如く挾箱を擔がして從者を連れて數十人列を作つて江戸を歩くやうになりました。唯大名が歩くときは挾箱に槍を立てゝ歩くが、町人の悲しさには槍を立てることは出來ないから六尺棒を持つて歩いた。江戸の士
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