ルボンと云ふ學者でありまして、群衆心理と云ふ説を唱へ出した人である。是は近頃の佛蘭西の軍人などが非常に多くルボンの門から出て居つて、歐洲大戰に參加した、愛國心もあり、哲學者でもある。此ルボンが今を去ること二十何年前に我が大使であつた本野一郎君に對して日本の出現は不思議だ、僅か四五十年で近世國家となつた。其有樣は恰も彗星が燦然として天體に現はれて來たやうなもので、世界を驚かして居る。併ながら彗星の運命は軈て地平線の彼方に消える運命を持つて居る。日本の如き國が四五十年にして近世國家となると云ふことは進化の法則に於て分らない。恐らくは彗星の運命ではないかと思ふと云ふ問題を出したのである。本野君は之に答へて、我國は四五十年で出來た國ではない、二千五百年の間掛かつて歩一歩踏締て出來て來た國民だと言つたらば、ルボンはいやそれは何處の國でも皆何千年も歴史を持つて居る。併し日本の歴史を讀んで見るが、大抵大名の戰爭と公卿の陰謀だ、是より他に記事はない。其日本がどうしてこんな長足の進歩をしたか分らない。君が二千五百年の間歩一歩踏締めたと云ふならばそれを一つ君の立場から書いたらどうかと云ふ譯で、本野が承知し
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