れたんじゃあるまいが……行って見ろ行って見ろ」
 と大勢押しかけて来ますと、成る程、井戸の中から大きな足が二本突出てバタバタやっている下から女の児の声がします。
「これは不思議だ。足は男のようだが、声は女の子の声だ」
「変だな」
「面白いな」
「奇妙だな」
「何でもいいから早く引っぱり出して見よう。そうすればわかる」
「そうだそうだ」
 と云ううち、大勢寄ってたかって引っぱり初めましたが、身体《からだ》が井戸の口にシッカリはまっている上に重たいのでなかなかぬけません。
「これはどうだ。中々《なかなか》抜けない」
「どうしたらいいだろう」
「仕方がない。車仕掛けで引き上げよう」
「そうだそうだ。それがいいそれがいい」
 と云うので、今度は村長さんのところへ行って井戸の水汲み車を借りて来まして、綱の一方に豚吉の足を結びつけて、その綱を車に引っかけると、大勢でエイヤエイヤと引き初めました。
 豚吉は驚きました。何をするかと思うと、大変な強い力でイキナリグングン足を引っぱられ初めましたので、今にも足が腰のつけ根から抜けてしまいそうで、その痛いこと痛いこと。
「痛い痛い。ヒイーッ」
 と豚吉は死ぬような声を出し初めました。
 これをきいた娘のお母さんは気が気でありません。
「あれ、もう止して下さい止して下さい。娘の足が抜けてしまいます。足が抜けて死んだら大変です」
 と泣きながら止めましたので、村の人も引っぱるのを止めました。
「この上引っぱったら足が抜けるばかりだが、どうしたらいいだろう」
 と村の人は相談を初めました。
「仕方がないから鍬《くわ》を持って来て、まわりから掘り出そう」
「それがいいそれがいい」
 と云うので、又みんな村へ帰って、めいめいに鋤《すき》や鍬を持って来て掘り初めました。
「みんな、気をつけろ。娘さんの腹へ鍬や鋤を打ちこむな」
 と大変な騒ぎになりました。
 ヒョロ子はそんなことは知りません。最前の通り、二粒か三粒|宛《ずつ》御飯を口に入れて、よく念を入れて噛んでは、お汁《つゆ》をほんのすこし嘗めながら、やっと御飯を一杯とお汁《つゆ》を一杯たべてしまいまして、又一杯食べようとしますと、何だか裏の方で人が騒いでいるようです。
「サア、人間掘りだ人間掘りだ」
「まだ生きているんだぞ」
「怪我《けが》させぬように掘出せ掘出せ」
 と云う声もきこえます。

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