つように攻め寄せて来た。けれども小僧は驚かなかった。狼が近寄ると、小僧は懐《ふところ》から燧石《ひうちいし》を出して森の外の枯れ草に火を放《つ》けた。すると折りから吹いて来た烈しい夜風に誘われて、見るうちに焼け広がって轟々《ごうごう》と音を立てながら狼の方に吹きかかって行った。そのために深い草の中に居た狼共は皆焼け死んだ。死なないものも火の勢いに恐れてチリチリバラバラに逃げ失せた。その後《のち》狼共は又と再びこの猿の都に攻め寄せて来なかった。それから猿共は王様を始め皆、小僧を神様のように恐れ敬って、毎日いろいろな美味《おい》しい果物を捧げて、何でも云う事を聞くようになった。小僧は益《ますます》得意になって大威張りで遊びまわった。
三
或る日の事、小僧は只一人で山の中を遊びまわっていると、思わず遠方まで来て一つの湖の傍へ来た。その湖は大変景色がよかったので、小僧はぼんやりと見とれていると、やがて沖の方から一|艘《そう》の帆掛船が来るのが見えた。小僧は久し振りにこんなものを見たので、何だか懐かしいような気がしてなおも一心に見ていると、その船はだんだん近寄って、小僧の眼の
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