京都府か大阪府か知らないが有識階級の夫人たちである。
その婦人たちも、遂に、名殘惜しげに社交會を終つて入場しだした。もちろん、長官夫人を先頭にして、彼女の夫たちの位階勳等の順序に一列に規則正しくお尻を列べて、練り込んで行くのであつた。その後から私がつづき、私の後から少尉夫妻がつづき、それから後にも尚ほ大勢の紳士淑女諸君がつづいて。
時間はたしかに三十分を經過してゐた。
眞珠の小箱
東大寺の本坊の廣間に、私は執事長K師と對坐してゐた。押し開かれた障子の向には、世にも稀なる楓《かへで》の古木が庭一面にその枝を張つて、血よりも鮮やかな紅葉を正午《ひる》さがりの日光にかがやかしてゐた。華嚴宗らしくもない近代的な齋《とき》の饗應にあづかつた後で、私は經庫の拜觀を申し出た。經庫はアゼクラ式で、小さいながらも陳列はよく整理されてあつた。其處には奈良博物館に供託してある以外の舞樂面がまだ相當に所藏されてあつた。
案内の役僧が、最後に前年大佛殿の須彌壇の下から發掘した貴重品を見せてくれた。それは光明皇后が聖武天皇の冥福のために納められたものとして昔から言ひ傳へられてあつたのを、
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