奈良二題
野上豐一郎

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《》:ルビ
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       社交團

 正倉院の曝凉は途中で雨が降りだすと追ひ出されて拜觀劵がそれきり無效になるので天氣を見定めて出かけねばならなかつた。それに、拜觀時間は十時から三時までと限られてあつたので、時間を有效に利用しなければ、私の計畫してゐたものは全部調べられるかどうかわからなかつた。私はその時(大正十五年十一月)は主として北倉と南倉の階上に陳列されてある伎樂面と天平時代の雜樂に關する資料を拜觀したいと思つてゐた。
 その日は早く起きて、空のことばかり氣にしてゐたが、まづ大丈夫だらうと見きはめがつくと、かねて用意して置いた懷中電燈と陳列目録と寫生帳をポケットに押し込んで、定刻早めに奈良ホテルを出た。
 拜觀者入口と高札を打つた柵の前には、かれこれ十人ばかりの婦人連が、若いのも年とつたのも、肥つたのも瘠せたのも、高いのも低いのも、いづれも白襟紋服の正裝で、列んでゐるやうな、列んでないやうな、大體に於
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