いてその位置を占據しながら、それでゐてその範圍内で斷えず移動してゐるといつた奇妙な集まり方をしてゐた。その前の柵の向側には、いかめしい制服の守衛が四五人突つ立つてゐたけれども、入口を塞いでゐる婦人連を片脇へ寄せようともしなければ、早く入らせようともしなかつた。
 もう入場時間となつたので、私は早く入りたいと思つたけれども、婦人連を押し分けて入るのもいけないと思ひ、おとなしく後に立つて待つてゐた。
 そこへ車が一臺やつて來て、一人の中年の婦人が幅廣の肉體をだぶつかせながら現はれると、婦人連は一せいに最敬禮をした。長官夫人とでもいふのであらう。お辭儀の交換と、挨拶の捧呈。――オクサマが此間どうあそばした時には、どうしなければならなかつたのでございましたが、私どものつまらない子供が病氣でございましたので、つい相濟まないこととは存じながらも、失禮をさせていただきまして、といつたやうな叮嚀な辨解から始まつて、――いつぞやはまたオクサマが東京からお歸りあそばした時には私の咀はしい持病が起りまして、ほんとに、ほんとに、相濟まないこととは存じ上げながらも、停車場へお出迎へ申し上げますこともいたしません
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