主務省の認可を得て發掘したもので、御物であつたかと推定される御劒と銀の小箱である。御劒の刀身は青く腐蝕してゐるけれども、裝飾の黄金はゆらゆらと輝いて、千二百年間土中したものとは思はれないほどであつた。
 小箱は銀か白金か或ひはその他の合金か私にはわからなかつた。その中には本願皇帝の御齒が收められてありますと云はれ、私は板の間に坐つて、押しいただいて葢を開けた。内側の鍍金は昨日出來上つた物のやうに新しく光つてゐた。細かい字で一面に經文が彫られてあつた。收められた御齒は一個の大きな臼齒で、それがたくさんな眞珠で詰められてあつた。眞珠の大きさは皆同じ大きさで揃ひ、程よい古びを以つて、しかし、決して光澤を失はないで、まことに見事なものであつた。
 私はその小箱の眞珠の中に御齒を埋められる光明皇后と、御埋葬の佛事と、その背景としての佛法繁昌の奈良朝の盛時を想像することなしにそれを見ることはできなかつた。しかるに、もつたいないことに、私の手はつい載せてゐた小箱を傾けて、その中に充滿してゐた眞珠を床の上にこぼしてしまつた。私は恐縮してそれを拾ひ集めた。さうして役僧に、全部で幾十粒ですか、念のために改
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