ルドーへ避難して來る人たちによつて傳へられた。それは決して戰爭その物の情報ではなく、戰爭の描きだす波紋の或る一方面に限られた現象に過ぎないものではあつたけれども。
一〇 風聲鶴唳
四日にパリを出た人の話。――
パリの空は無數の阻塞氣球で防護されてゐる。パリジャンはそれをソーセージと呼んでるさうだ。形が似てるからだ。(ロンドンの空もおびただしい阻塞氣球の城壁が築かれたといふ。)
燈火管制が嚴重になつた。眞夜中に見ると、美しい星空の下にパリは廢墟のやうに横たはつてるのが凄いやうだといふ。
最終の避難列車は六日にパリを出る。それに乘りおくれるとボルドーへの交通は杜絶するかも知れない。と、これは日本人間の噂だつた。
列車は非常な混亂で、ケー・ドルセーの停車場では卒倒した女が何人もあつた。尋常なことでは列車に乘れないので、窓から攀ぢ登る者もあつた。持つて來た荷物をプラットフォームに棄ててしまつた者も少くなかつた。――そんな話を聞くと、またしても大震災の時の混亂を思ひ出す。フランス人も修養が足りないやうに思はれた。
英國汽船アシニア號がドイツの潛水艦に撃沈された。乘客
前へ
次へ
全85ページ中63ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
野上 豊一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング