大戰脱出記
野上豐一郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)開《あ》いて

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(例)用|達《た》し

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(例)※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]
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       一 パリとの通話

 エスパーニャに居る間に中歐の形勢はどんどん惡化して行つた。
 ドイツが突然ソヴィエトと握手したといふ報道がサン・セバスティアン(公使館所在地)に傳はつたのは八月二十二日(一九三九年)だつた。その朝私たちは食卓で前の日に見た鬪牛の話をしてゐた。そこへ入つて來た矢野公使にその話を聞かされた時は驚いた。ソヴィエトとドイツが不可侵條約を結んだとすれば、今までの防共協定なるものは同時に無意義なものになつたわけだ。世界の動向は全くわからない。
 ドイツの行動が毎朝毎夕新聞を賑はした。ダンチヒにはドイツの大軍が集結してゐる。「廊下」の恢復は避けられないだらう。ポーランドは抵抗しないで蹂躙に委せる筈はない。英佛
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