あつた。しかるに、偶然は不思議なもので、別に見たいとも思つてなかつたボルドーを飽きるほど見ることになつた。
 エスパーニャへ行く途中、ボルドーで汽車を棄てて、町のおもな建物を一瞥して歩いた時、ボルドーはこれでおほよそながら卒業したことにして置かうと考へた。エスパーニャからの歸途、今度は下りはしなかつたが、一度見た町のそこここを汽車の窓から眺めて、卒業した學課の復習をしたやうなつもりで通り過ぎた。ところが、戰爭は私たちをパリから追ひ立て、またボルドーへ運んでしまつた。よくよくボルドーに因縁が結ばれてゐたものと見える。先にいいかげんに速習したボルドーの知識が今度は正確な知識になつた。何となれば、私たちは鹿島丸の入港を待つ間、それから鹿島丸の出帆の日まで、それは實に退屈な長い逗留だつたが、その間、ボルドーを研究するより外にすることとてはなかつたのであるから。それで、もし他日私のボルドーの知識が何かの役に立つことがあるとしたら、私は今度の戰爭を始めたアドルフ・ヒトラー氏に感謝しなければならぬだらう。
 しかし、ボルドーのことよりも私たちはやつぱり戰爭の動向が知りたかつた。けれども、ボルドーでは
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