てわかつた。
下へおりて見ると、玄關脇の小部屋でかみさん[#「かみさん」に傍点]は敷布《シーツ》を疊んでゐた。亭主の姿は見えなかつた。もう入營したのだらう。年の頃は五十そこそこに見えたが、あんな年寄を取つてどうするのだらうと思はれた。しかし、フランスでは十八歳以上五十三歳までの男は全部召集されるのだと聞いてゐた。話しながらかみさん[#「かみさん」に傍点]は泣いてゐた。
私たちはタクシを呼んでもらつて宿さがしに出かけた。割に近くのプラース・デ・グラン・ドムのそばに手頃なホテルを見出して、まづ一週間の契約で三階の一部屋を借りることになつた。
鹿島丸は七日にはボルドーに入港する筈になつてゐた。
九 ボルドー膠着
私たちは日本を出る時、ボルドーを見る豫定などは作つてゐなかつた。
私の同郷の先輩O氏が若い頃水産技師としてボルドーに留學し、歸つてからその地方に關するいろいろの土産話を聞いた記憶があるので、それ以來ボルドーは一種の親しみを以つて考へられはしたが、今度の限られた旅行の日程に於いて、ボルドーに多くの時間と勞力を費すくらゐなら、まだ見殘した土地で見たい所は幾らも
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