から下りて來て、かみさん[#「かみさん」に傍点]に勘定をして出て行つた。
 入れちがひに、私たちは三階の一つの部屋に通された。その前に、かみさん[#「かみさん」に傍点]は部屋代を先拂に拂つてくれるかといつた。幾らだと聞いたら、十五フランといふので、私は五フランのティップを添へて渡した。
 天井の低い安つぽい寢室ではあつたけれども、その晩の私たちにとつては、ベルンで泊まつたホテル・ベルヴュウの豪華な寢室よりもありがたいものに思へた。實は南京蟲でもゐはしないかといふ心配もなくはなかつたのだが、たとひ南京蟲に食はれたとしても、氣がつく筈はなかつた。身體《からだ》が自分のものだか他人《ひと》のものだかわからないほどに疲れきつてゐたのだから。
 次の朝は八時過に目がさめた。ポリフェモスのやうに眠つたのだつたが、まだひどく疲勞を感じてゐた。鎧戸をはねあけて見ると、見覺えのある一對の寺の塔が、白い角《つの》のやうに窓の正面に竝んでゐた。ボルドーのカテドラル(サンタンドレ)だ。二十三日前に私たちがエスパーニャへ行く途中、見物した寺だつた。その寺からあまり遠くない所に昨夜は宿を借りたのだといふことが初め
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