を出るとすぐ右へ折れて、構内のオテル・テルミニュへ入つてしまつたのだつた。そのホテルのことを初めから聞いて置かなかつたのは迂濶だつた。また、私としても、それを確かめて置くべきだつた。夢遊病者の迂愚!)
 それにしても先に着いてるとのみ思ひ込んでゐた私の姿の見えないのが、彼女の第二の疑間だつた。どこかそこいらにゐて、お互ひに搜し合つてるのではないかとも思はれたが、燈火管制の下の暗黒はその不安を確かめることもできなかつた。もう少し搜して見て、それでも搜し出すことができなかつたら、野宿をするつもりだつた、といふ。構内のベンチの上にも、廣場のそこここにも、荷物に凭つかかつて眠つてる人たちを私たちはたくさん見た。それも大震災の時の風景に似てゐた。
 ――とにかく目つかつてよかつた!
 ――ほんたうに!
 さういつて安心し合つたものの、私たちは飢ゑて疲れきつて、いきいきした喜びを言葉に出すことさへもできなかつた。
 やつとの思ひで、荷物を持ち上げ、廣場を横ぎり、あかあかと灯のついてるレストランに入り、何か食はせてもらはうとしたが、ゆで卵二つのほか食ふものとては一つも手に入らなかつた。それを二人で分
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