る一人一人を物色してる堵列の一番最後に、近眼鏡を光らして。さうして一つのスーツ・ケイスと一つのボストン・バグを足もとに置いて。
 ――どうしたんだ! もう着いてたのかい?
 全くそれは豫期しないことだつた。つい一瞬間前まで、待つのは私の方だとばかり思つてゐた。話を聞いて見ると、彼女の列車はトゥールからポアティエを通つて來たらしい。座席は早くから取つてあつたので腰かけて來ることはできたが、食物は私同樣一つも取ることができなかつた。ボルドーに着いたのは一時間ほど前だつたが、プラットフォームから改札口に出るまでに、同行の人たちに見はぐれてしまつた。同行の人たちといつても二十七人もあるのに、幾ら暗いとはいへ、見はぐれるのはをかしいやうだけれども。大震災の時、東京市内の到る所で起つた似たやうな事件が思ひ起された。暗さも混雜もまるで同じだつた。
 それにしても、二十七人もの人が改札口を出ると掻き消すやうに消えてしまつたのに當惑して、彼女は停車場の構内を搜しまはつたり、前の廣場のタクシの立場に行つて見たりして、もう一時間ばかりもうろつきまはつてゐたのだといふ。(二三日後にわかつたのだが、彼等は改札口
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