見ると、もう六時には間もなかつた。廣廣とした耕地の末はあまり高くない丘陵になつて、その上には銅色の雲が光つてゐた。氣がつかなかつたが、もう太陽は丘陵の向側に沒してゐた。
 皆戰爭のことを考へ込んでるのだらうか、乘客はいつものフランス人にも似ず、女も男も押し默つて深刻な顏をしてる者が多かつた。便所の前にはレヂオン・ドノールの略綬を附けた老軍人が、今一人の老軍人と立つて、時時小聲で話し合つてゐたが、彼等も疲れたと見え、乘降口のドアをあけて、その階段に足を下して床の上に尻をすゑてしまつた。さつきの青年はその後も子供たちの介添役を引き受けて、人を掻きわけては便所を訪問してゐた。その度に私の方へ會釋を送つて通つたが、或る時、
 ――ボルドーは十時になるかも知れませんよ。
といつた。それは私を困惑させた。私は今朝パリの宿を出て以來、一物も咽喉《のど》を通して居らず、それに、がらにもない宋襄の仁は私の身體を綿のやうに疲らせ、私の足を棒のやうに麻痺させてしまつた。もし半メートルでも歩きまはる餘地がありさへしたら、應變の運動法を實行することでもできたでもあらうが、不幸にして私に殘された一サンティメートル
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