の餘地すらもなかつた。二つの靴は踏みつけた位置に膠着したままで、足と足と、胴と胴と、人間とトランクと、よくもかう巧妙に詰め込まれたものだ。その巧妙さは、私にテバイで見たツタンカーメンの小さい墓穴を思ひ出させた。カイロの博物館に陳列されてある彼の遺物の夥しい什物は全部テバイの王の墓の小さい穴倉の中に收まつてゐたのだ。私はその穴倉をのぞいて自分の目を疑つた。この小さい穴倉の中にあれだけの物が詰まつてたとすれば、まさに整頓の驚異だ! さう思つて感歎した。しかし、それは什物、これは肉體。肉體の方がより多く彈性があり、より多く詰め込まれ易いことはいふまでもないが。
戰爭の恐怖はパロよりも整頓の才能をより多く持つ。
ミケランヂェロの「最後の審判」の肉體の堆積。……
ダンテ描くところの「地獄」のもろもろの圈の肉體の堆積。……
諸君はトランクに縛られた憐れなプロメテウスを想像してくださることができるだらうか?
なほつづく飢餓と涸渇と疲勞と困憊の一時間……二時間……三時間……四時間……
列車は暗黒の中を駈けて行く。私と同じやうに、渇き切つて、疲れ切つて、呻きながら。
闇の中に火が見え出した
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