がましく、なごやかだつた。私たちの部屋とむかひ合つた向側の建物の窓の鎧戸はまだ締まつたままで、いつも早くから聞こえる往來の物賣の聲もきこえなかつた。實はパリの最後の朝食を、いつものカフェのテラスに腰かけて、あのうまい珈琲とクロワサンでしたかつたのだが、出發前の氣持のあわただしさは、私たちをホテルの平凡な食卓で我慢させた。
ホテルに飼つてある灰色の太きな牡猫が私たちのテイブルの上に跳び上つて、人なつこさうに長長と寢そべる。私はそいつの頭を輕く叩きながら、マダム・Xの持つて來た『プチ・パリジャン』にざつと目を通すと、ポーランドの危急を報道する記事が大きく出てるだけで、フランスのこともイギリスのこともなんにも出てなかつた。
食事がすむと、M君の好意で※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]してくれた車が來たので、正金の人たちと約束した時間にはまだ早かつたけれども、出かけることにした。
ケー・ドルセーの停車場には人がいつぱい溢れてゐた。正金の家族の人たちはすぐ目つかつた。日本人が二十七人も集まつてるのだから目つからない筈はなかつた。それに見送りの人たちも大勢ゐた。その中に支店長I氏を發
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