灯があかあかとついてゐた。
 話は戰爭のことがおもだつた。ドイツでは飽くまで「廊下」を自分の物にしようとして居り、ポーランドでは拒んで「廊下」の入口を塞いだとすれば喧嘩は避けられないにきまつてゐる。問題は英佛がそれを傍觀するかどうかだが、英佛としてはすでにあれだけ大きな口を利いた以上、體面上からでもポーランドを見殺しにすることはできない筈だ。それにもかかはらず、戰爭にならないですむかも知れないといふ推定の根據はどこにあるのだらう? それを私は知りたかつた。M君は笑ひ出して、さう方程式を解くやうには行かないといつた。昨日あたりもまだヘンダーソンは動きまはつてゐた。イギリスは戰爭をしたがらないのだから仕方がない、といつた。氣ちがひでないかぎり戰爭をしたがるものはないだらう。――ヒトラーはどうだ?――ヒトラーといへども内心は戰爭を避けたいのだらう。イギリスが戰爭を避けたいといふ腹を見透して強氣に出てゐるだけだらう。しかし、事によると、イギリスも今度は本氣に腰をすゑるかも知れない。それでヒトラーはスターリンと組んだのだ。――さうなつてイギリスが立たなかつたら、大帝國の威信は地に墜ちてしまふでは
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